赤塚高仁ブログ

奈々子に(父の日によせて)

2015.06.20

赤い林檎の頬をして

眠っている 奈々子。
お前のお母さんの頬の赤さは
そっくり
奈々子にいってしまって
ひところのお母さんの
つややかな頬は少し青ざめた
お父さんにも ちょっと
酸っぱい思いがふえた。
唐突だが
奈々子
お父さんは お前に
多くを期待しないだろう。
ひとが
ほかからの期待に応えようとして
どんなに
自分を駄目にしてしまうか
お父さんは はっきり
知ってしまったから。
お父さんが
お前にあげたいものは
健康と
自分を愛する心だ。
ひとが
ひとでなくなるのは
自分を愛するのをやめるときだ。
自分を愛することをやめるとき
ひとは
他人を愛することをやめ
世界を見失ってしまう
自分があるとき
他人があり
世界がある。
お父さんにも
お母さんにも
酸っぱい苦労がふえた。
苦労は
今は
お前にあげられない。
お前にあげたいものは
香りのよい健康と
かちとるにむづかしく
はぐくむにむづかしい
自分を愛する心だ。
  去年1月に天に還って行かれた、大好きな詩人・吉野弘さんの「奈々子に」です。
60年前に発表されたこの詩は、前年に生まれた長女の奈々子さんに語りかけるように詠まれています。
この詩は、吉野さんの代表作のひとつとなり、教科書にも載ったそうですが、
長女の奈々子さんは、この詩が一人歩きし、遠ざかって行く氣がして、敬遠していたそうです。
奈々子さんが、結婚して母となり、子どもの寝顔を見つめていたとき、
この詩を読み返してみたそうです。
涙があふれて、とまらなくなったそうです。
 知らず知らずのうちに、この詩が自分を作っていたのだと気付き、
子育てをしながら、我が子にも自分を大切にしてほしいという気持ちが湧き上がったと奈々子さんは言います。
そして、この気持ちが父からプレゼントされた「愛」であることに、ようやく気付いたと。
 かちとるにむづかしく
 はぐくむにむづかしい
 自分を愛する心だ。
この広い宇宙でたったひとつのユニークな存在である「自分」
この世に送り出してくれた、たった一人の父を想う、今日は父の日です。
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